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兄 [その他]

 いや、すごいニュースでした。トヨタ自動車のことです。

 当初は2兆円の営業利益を予想していたのが、金融危機を発端とする不景気と、加速する円高の影響で、1500億円の赤字予想。一気に2兆円以上の利益が吹っ飛んだのだから、世界同時不況の深刻さが分かります。

 新聞の経済面は人員カットのニュースばかり。しようがない部分があるとはいえ、こうもたて続けに派遣社員が解雇されたり、正社員の早期退職を募る動きが続くと、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という言葉を思い出します。企業は社会に不可欠な存在で、暮らしていけるのも、新しい技術や製品を体験できるのも、企業のおかげではあります。ただ、「企業の集団心理」には、いささか違和感というか、怖さを感じてしまいます。

 こういう状況なので、私の周囲も暗い雰囲気。何かスカッとすることはないのか。そう思っていた矢先、田舎の母からうれしい知らせが届きました。兄のことです。

 ここ数年、兄はある工場に若者を派遣する仕事をしてきました。工場は、その地域では唯一といっていい大工場で、地元の若者にとって貴重な働き場所となってきました。

 しかしその工場も最近、派遣社員を一斉にカットしてしまいました。金融危機の前から不況だった業種で、10月に別の会社へ売却されたばかりの工場だったこともあり、追い討ちをかける不況に耐えられなかったようです。穏やかな土地柄もあってか、解雇は「つつがなく」行われ、「派遣斬り」が相次ぐ状況なので、さしたるニュースにもなりませんでした。

 多くの若者が職を失ったことを思うと、本当に胸が痛みます。私も働く気持ち自体がなかったとはいえ、長いあいだ失業状態にありましたし、地方に職がなくて困っていることもよく知っていますから。おそらく、彼らの多くはしばらく失業保険で食いつなぐか、東京や大阪へ出て新たな人生を歩むことになるでしょう。

 そんな状況なのに、不謹慎にも「うれしい知らせ」と書いたのは、彼らの失職に合わせて、兄が仕事を辞めたと聞いたからです。

 解雇通告を行うのは工場側の仕事ですが、実際に言い聞かせるのは管理者である兄の役目でした。兄にとって、派遣の若者たちは弟のような存在でしたから、仕事を続けられるはずもなく…責任者として、兄を慕ってくれた派遣会社の部下たちが制止するのを振り切り、辞職したのです。

 辞めたからといって、若者たちが職を失うのを止められるわけでもなく、仕事を続けることが悪いとも思いません。ましてや、もう40歳が近くに見えてきている年齢で、不景気の真っただ中だけに、自分が食っていくことすら覚束ない状況。それでも、自分なりの「美学」を貫いた兄を、私は誇りに思います。「やってくれた!」と拍手喝采する気持ちでいっぱいです。両親も同じ気持ちでいます。幸い仕事で苦労してきたせいか、気楽に構えている様子。安心しました。

 不況というのは、社会を暗くし、直接的に関係がなくても、人の心をすさませてしまうものです。私も上京してすぐの、バブルがはじけたころは、すさんだ生活を送っていました。それでも、こういう時こそ自分の美学を貫きたいと、今は兄と同様に思っています(残念ながら、その真逆を突っ走っていますが)。

 今回の不況で解雇された人たちには、ぜひとも新しい人生に向かって堂々と歩み出してほしいと思います。「自分が社会を変えてやる!」くらいの気持ちで。


タグ:派遣 不景気
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