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阿部定 [映像]

 多くの方に読んでいただいているのに、テキトーに書いてばかりですみません。 

 ところでYOUTUBEといえば、みなさんはどんな動画を見ていらっしゃるでしょうか?私は中村俊輔選手が先日のレンジャーズ戦で見せた豪快なミドルシュートとか(あれはすごかった)、サンドウィッチマンのコントとか、気軽に見られてストレス解消になるような動画ばかり探しています。

 でも先日こんな動画を発見し、驚いてしまいました。

 

  そう、「あの」阿部定さんです。

  おそらく1969年(昭和44年)公開の映画「明治大正昭和 猟奇女犯罪史」にご本人が登場した際のひとコマでしょう。彼女は1905年(明治38年)生まれで当時63歳。立派なおばあちゃんですが、それでも若いころの美貌が伺えます。いや~、こんな映像が見られるとは。

  事件についてほうぼうで書き尽くされているので、当ブログでは言及しません(ご存知ない方はこちら(http://www.alpha-net.ne.jp/users2/knight9/abesada.htm))。

  私が興味を抱いているのは、事件とそれを受け止める側、つまり社会との関係です。

  事件は1936年(昭和11年)5月に起こっています。その3カ月前には2・26事件が起こったばかりで、ちょうど日本が軍国主義への道を走り始めた時期にあたります。新聞は事件を大々的に取り上げ、世間は完全に興味本位で受け止めました。情夫を殺した後にイチモツを切り取り、大事そうに持っていたという、好奇心を刺激しやすい内容に加え、前途に暗い影がさし始めた当時の社会にとって、重苦しい空気をかき消すかっこうの話題でもあったのでしょう。

  ただ誤解されがちですが、この時期はまだ戦争を意識する段階には至っていません。社会面に載るような事件については、ほとんど検閲されていなかったのではないでしょうか。2年後に起こった「津山事件」は、30人が殺された史上まれに見る大量殺人事件であったにもかかわらず、やはり大きく取り上げられています。むしろ社会不安はあったけれども、戦争でそれどころではないとまではいかない、微妙な世相だったことが、事件をことさら盛り上げたのではないでしょうか。

  「阿部定ブーム」は、その後も寄せては返す波のように、何度か訪れました。最初は戦後まもない時期のことでした。1947年(昭和22年)に織田作之助の小説「妖婦」や「エログロ」のカストリ小説でモデルとして取り上げられ、彼女の元を訪れた坂口安吾と対談しています。しかしこの対談、事件を「二人だけの至高の世界に於ける一つの愛情の完結」と考え、賛美しようとする安吾と、世間から変態扱いされるのを嫌い、ひたすら平穏な人生を願う定の会話が、どこかかみ合っていません。

  定はどうも、安吾の期待に沿うような人物ではなかったようです。対談後に書いた手紙に「最も平凡な女という感じを受けました」と何となく残念そうに感想を書いており、「トンチンカンな対談」であったと認めています。

  安吾が前年に書いた「堕落論」は、当時の若者なら誰もが読んだほどのベストセラーで、彼は敗戦で退廃的になり、既存のあらゆる価値観を捨て去ろうとしていた世相の代弁者でもありました。おそらく安吾は、そうした世相の象徴として、定を迎え入れたかったのではないでしょうか。しかしタブーにとらわれずに、自由にモノを考える空気があった点は事件当時と180度異なりますが、やはり社会の側は事件を客観視する状況になかったといえます。定は翌年手記を発表した後、世間から身を隠してしまいます。

  定はその後も「愛のコリーダ」など、幾多の映画や小説でモデルにされ、さまざまな取り上げられ方をしています。でも私は本当の彼女を描いた作品にまだ出会っていないように思います。事件の特異性から、永遠に定の本質に迫ることはできないだろうとも考えていました。

  と、ここで冒頭の動画に戻るわけですが、私が驚いたのは老いた姿を目にしたからだけでなく、安吾のいう「平凡な女」という印象が、活字以上に滲み出ていると感じたからなのです。平凡さこそが定の本質であり、変態でもなければ、安吾に持ち上げられるような人でもなかったと思うのです。映像で「芯から好きだったから…」と言っているあたりに真実がうかがえます。 

  彼女は1974年(昭和49年)前後の3カ月、浅草にある知人の旅館でかくまわれていたという証言を最後に消息不明となりました。1987年(昭和62年)ごろまでは、殺害した石田吉蔵の永代供養の手続きをしていた身延山久遠寺に、彼女からと思われる花束が届いていたようです。生きているとすれば103歳ですが…。

  彼女がテレビカメラの前できちんと心中を吐露する機会があったなら…と悔やまれます。仮にそれが今なら、世間はどう受け止めるのでしょうか。


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