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ディーズデイズ [その他]

 わけあって、ここ数カ月は一人暮らしをしています。といっても、学生時代のように自堕落な生活を満喫しているわけではなく、夜型を返上して早寝早起きの規則正しい生活を続けています。           

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 それじゃ「らしくない」と思ったわけではありませんが、ある日の仕事帰り、ふと思い立ってそのまま深夜ドライブへ出かけることにしました。

 一度とことん自分を追い込んでみたいと思い、実際に自らを叱咤激励しなければならないほどの状況に身を置いて何年経ったでしょうか。不惑なのにまだまだ迷ってばかりですが、ギリギリの状況をしのいでいく中でようやく自分の考えが間違っていないという手応えをつかみ始めています。無理を重ねた分、自分の中に封じ込めていたいろんな感情がたまったので、そろそろ捨てに行くことにします。

 行き先は決めません。ひたすらさまよい人になります。

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 寒くなってきたせいか、首都高から望む東京の夜景はいつもより華やいで見えます。

 見ている側の心境のせいかもしれません。孤独だった学生時代。傍観者でいてはいけないと思い、周回遅れでようやく社会に飛び込んだ新入社員時代。独身生活に別れを告げた時、そして今日。この街は人生の節目ごとに全く違った顔を見せてきました。今日のように祝福されていると感じるときもあれば、逆に冷酷非情な一面をのぞかせることもありますが、ここを離れようと一度として思わなかった理由はそこら辺りの天の邪鬼さにあるのかもしれません。

 役所にオフィスビル、観光地と、主立った場所はほぼ全て訪れたはずなのに、全く極めた気がしない。今まで目にしたどの都市とも異質で、飽きっぽくて退屈が嫌いな自分にとっては理想的な街です。

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THE BEATLES 「I Am the Walrus」
GENESIS 「The Brazilian」
LOVE PSYCHEDELICO 「These days」
Metallica 「Low Man’s Lyrics」

 必ずしも曲調と一致しませんが、せき止めていた感情の処理に困ったときや、エネルギーを使い切って心がカラカラに乾いたときは、これらの曲を好んで聴いてきました。
      
 湾岸線を経て東名高速に入り、とあるパーキングエリアで一服。ぼんやり夜空を見ていると、どこからか、ずだ袋のようなミリタリーバッグを背負い、ベースボールキャップを目深に被った、ジーンズ姿の痩せた若者が近づいてきました。

 「古い車だね」

 ため口をきかれても不快に思わなかったのは、その目が好奇心に満ちていたからかもしれません。

 「乗る?」

 いきなりキーを渡された若者は、「ペーパードライバーなんだけど…」としばらく躊躇した後、意を決したように無言で車へ乗り込みました。

 東名から小田原厚木道路に進み、箱根方面へ。運転に慣れるにつれて、彼は饒舌になっていきました。大学に面白さを見いだせなくて通うのをやめてしまったこと、何かが変わると思って衝動的に旅に出たこと、とりあえずヒッチハイクを始めたものの、今日の自分と同じで目的地を決めていないこと…。若者にありがちな話はけして退屈ではなく、むしろ新鮮で、気がつけばいろんな話題について語り合い、こちらもいろんなことを打ち明けていました。誰にも話してこなかったことを含めて。

 「そっか、きっとかわいい男の子だろうな。会えないとつらいね」

 「あとしばらくの辛抱だから。でも歳食って授かったせいもあるのかな、やっぱり親ばかになるんだねえ。毎日思ってるよ。そばにいたら抱きしめてあげるのにって」

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 御殿場を経由し、富士山を望む湖に着いたあたりで夜が明けてきました。湖畔ではすでに数人のキャンパーが目を覚まし、気嵐に包まれた幻想的な湖に見入っていました。

 「たまった感情を捨てるにはうってつけの場所だな」

 「新しい命の誕生を祝う場所としても、ね」

 「うん。そしてまた新しい朝が始まるんだ」
 
 ゴミ袋を放り投げるようなしぐさをして振り返ると、若者の姿はいつの間にか消えていました。周りのキャンパー達は景色に夢中で、誰一人としてそれを不思議がっていない様子でした。もしかすると、感傷に浸りたい気持ちが20年前の自分を一時的に蘇らせたのかもしれません。


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